骨盤臓器脱、 尿失禁・過活動膀胱
骨盤臓器脱
近年高齢化が進む中、子宮脱に代表される骨盤臓器脱に対する機能を重視した取り組みに注目が集まっています。骨盤臓器脱は、単に子宮の脱出だけでなく、膀胱や直腸が脱出したり、尿道の動きを制限することにより、排尿、排便機能、性機能障害など日常生活に支障をきたす疾患です。
患者数
我が国では、病気に対する認知度が低く、羞恥心などから受診をされない方も多く実際の患者数は把握されていません。米国の統計では一般女性が80歳までに骨盤臓器脱や尿失禁などに関連した疾患に罹るのは全女性の11%と推定されています。経膣分娩を経験した女性の約50%に骨盤臓器脱の症状があり、骨盤臓器脱症状がある方の37%に尿失禁があったとの報告があります。このように女性の1割にみられる疾患で、高率に尿トラブルを引き起こすことから、超高齢化社会の現在、ますます注目されてくるものと思われます。
原因
骨盤臓器脱の一番の原因は出産です。分娩により、骨盤を支える筋肉や靭帯が傷つき、年齢とともに臓器を支える力が脆弱となり、子宮や膀胱、直腸などが膣内へ落ち込みやすくなります。その中でも、3500g以上の赤ちゃんの分娩、難産、多産、高齢出産、吸引や鉗子分娩となった方はリスクが高いとされています。また慢性的に腹圧がかかることが一因となり、肥満、便秘症、重いものを持ち上げる仕事の方などに多く見られます。
症状
骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器を支えている筋肉や靭帯(骨盤底筋群)が脆弱になることにより子宮や膀胱が下垂してきて、膣粘膜が部分的、重症になると外陰部の外側まで脱出してきます。初期症状は違和感、下垂感ですが、これらが下着に擦れると出血したり、尿漏れや排尿障害、排便困難、歩行障害などの症状を招き、日常生活を著しく阻害します。
家族にも相談できず1人で悩みがちになることも多く、次第に引きこもりがちとなり社会生活を送れない方もいらっしゃいます。
検査
子宮脱や膀胱瘤などは併発していることも多く、内診で評価します。さらに症状の程度により治療法を選択していきます。
治療
①予防および保存的治療
骨盤底筋体操
(方法)
- 寝ている状態:仰向けに寝て、膝を少し立てる
- 椅子に座っている状態:椅子に浅く腰掛ける
- 立っている状態:つま先立ち
深呼吸をしながらリラックスして、肛門や膣を引き締める→緩めるサイクルを10回繰り返し、これを1日3回行うことをお勧めします。気軽にできますので、習慣付けが大切です。
分娩後からの骨盤底筋体操は骨盤臓器脱の予防に有用です。骨盤底筋体操は、骨盤にある肛門挙筋と会陰筋を強化する体操で、妊娠中に開始して産後少なくとも6ヶ月続けると骨盤支持の改善と保持に効果が期待できます。
生活に注意
肥満、慢性咳嗽、慢性便秘は骨盤臓器脱に悪影響を及ぼすので、ダイエット、お腹に圧がかからないような生活習慣、禁煙が必要です、
リングペッサリー
体操で改善しない場合には、膣内にリング状のペッサリーを挿入することで矯正することが多いです。しかし長期的に膣内に入れておくと、膣粘膜が傷ついて出血したり、感染しておりものが増え悪臭の原因となったり、膣内に埋没してしまうことがあるので、定期的に診察して洗浄、リング交換を必要があります。
フェミクッション
フェミクッションは、これまでつらい思いをされていた患者様のために、骨盤臓器脱の治療と予防を目的とした、新しい治療法として考えられた医療機器です。
子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤、小腸瘤などすべての骨盤臓器脱にお使いいただけます。
フェミクッションは、独自に開発されたクッション・ホルダー・サポーターを組み合わせて、必要な時に患者様ご自身でお使いいただけます。
臓器が膣内に戻っている状態で膣口をクッションで抑え、ホルダーとサポーターで押上げ保持する機能となっております。
装着してすぐに症状を緩和し、腹圧がかかっても臓器が外に出ず、安心して日常生活を過ごしていただくことが可能となります。また、就寝時などは、臓器が戻っているため装着の必要はありません。更に繰り返し洗って衛生的に使用でき、他人から知られ難いように配慮し、下着のように見えるデザインとなっております。
特に病院に行けない方、リングペッサリーが合わない方、持病などで手術ができない方に適しています。
②手術療法
保存的治療で改善がなく、生活に支障がある場合には手術療法の選択肢となります。手術療法には、ハンモックのようにメッシュを用いた膣式手術(Tension-free Vaginal Mesh:TVM手術)、再発率・性腺機能障害が少ない腹式(腹腔鏡下)によるメッシュを用いた仙骨膣固定術、高齢者や内科合併症の多いハイリスク患者には膣閉鎖術(Le-Fort法)などがあり、手術が必要な場合には適切な施設へ紹介させて頂きます。骨盤臓器脱手術の基本は骨盤底臓器の解剖学的支持の復元であり、骨盤臓器の機能の回復を図ることです。骨盤臓器脱は高齢女性が多く周術期の合併症を考慮し、それぞれのライフスタイルに合う治療を選択し、生活の質を向上させることが大切です。
過活動膀胱、尿失禁
女性下部尿路症状(female lower urinary tract symptoms:FLUTS)には、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁、排尿困難、膀胱痛などがあり、妊娠出産、子宮疾患、骨盤底支持の3要素が重要です。加齢により膀胱や尿道関連の神経機能は低下し、高齢女性では、変形性脊椎症や腰部脊柱管狭窄症など整形外科的な問題が関与していることが多く、動脈硬化症や生活習慣病なども関与しています。
過活動膀胱とは
膀胱が過敏になって、尿が十分に溜まっていなくても本人の意思とは関係なく膀胱が収縮するため、尿意切迫感(急に起こる抑えられない強い尿意で、我慢することができない状態)があり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う状態です。
<下記4つの症状がみられる場合には、過活動膀胱の可能性があります>
(過活動膀胱の写真)
- 検査・診断
まずは問診や質問用紙(排尿日誌)を使って状態を把握します。 - 治療
①生活習慣の改善
肥満がある場合には減量、水分・カフェインを取りすぎないなど見直しましょう。
②骨盤底筋訓練
骨盤にある筋肉を鍛えることにより、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁にも効果が期待できます。まずは3ヶ月程継続しましょう。
③膀胱訓練
尿を溜める訓練で、すぐにトイレに行かないで少しずつ排尿を遅らせて溜められる膀胱容量を増加させます。まずは排尿日誌をつけて、自分の排尿パターンを知りましょう。
④薬物治療
- 抗コリン薬:膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感を改善します。便秘、口渇などの副作用があります。
- β3受容体作動薬:尿を溜める際、膀胱を緩めて容量が増加します。副作用が少なく高齢者にも使用しやすいです。
(過活動膀胱治療の画像)
尿失禁とは
尿の無意識あるいは不随意な漏れが衛生的または社会的に問題になった状態です。尿漏れがあっても、生活様式の工夫によって生活に問題がなければ、社会的には排泄がコントロールできた状態となります。
尿失禁の種類
①腹圧性尿失禁、②切迫性尿失禁、③混合性尿失禁などがあります。
①腹圧性尿失禁とは、労作時や運動時、または咳など腹部に圧がかかった際、不随意に尿が漏れる状態です。その原因として尿道過可動と内因性括約筋不全があり、40歳以上の約3割が経験しています。
②切迫性尿失禁とは、尿意切迫感が急に起こる抑えられない強い尿意で、我慢することが困難で不随意に尿が漏れる状態です。40歳以上の約1割が過活動膀胱の症状があり、その内の約半数が切迫性尿失禁を経験しています。
③混合性尿失禁とは、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の双方がみられる状態です。
他にも、排尿障害から多量の残尿をきたして膀胱から尿が溢れる溢流性尿失禁、認知症や運動能力の低下のためにトイレに行き排泄行為を行うことが間にわず生じる機能的尿失禁などがあります。
治療
腹圧性尿失禁に対しては骨盤底筋訓練が有効です。この訓練により、尿道括約筋や肛門挙筋を鍛えることで、尿道の閉鎖圧を高め、骨盤内臓器の支持を補強します。薬物療法としてはβ2交感神経刺激剤(塩酸クレンブテロール)があります。
切迫性尿失禁の症状を同時にみられる場合には、過活動膀胱の治療を行います。